第3話「サービスの時間」頃

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四月、又は序章

月が爆発した。比喩ではない。謎の爆発が、この衛星のおよそ七割を蒸発させた。夜空は満月を失った。今は三日月がかわりとばかりに昼夜も問わず、しかし規則的らしく地球を照らしている。

ひと月あまりのできごとだ。世界を揺るがす大事件は、誰が最初に気づいたにせよ、知れ渡るには二十四時間では長すぎた。英語、中国語、文章、動画、陰謀、空想、ありとあらゆる人々が、ありとあらゆる情報を、ありとあらゆる憶測で、会話、通信、拡散した。それも一時の混乱だったが、今なお大衆媒体は爆発の真実を妄想している。

謎は解明されなかった。

「これが月を破壊した怪物です。一年後の三月にはこの地球をも破壊します」

妄想は解体されなかった。

「防衛省から来た」大人はくすりともしないで背筋を伸ばした。「中学校の応接室」で写真がつるりと私たちを隔てる。窓を隠された部屋でかさりともしない黄色の塗装。合成だと、画像だと、錯覚したい私に「実物はぬるりとしています」と黒服は証言した。

これは国家機密である、と。

一介の生徒には教えられない秘密。謎の爆発の最大の謎——犯人——が中学校で雇われた。

この任務説明ミッションブリーフィングそれが「椚ヶ丘中学校三年E組の担任ならしてもいい」と言い出した話で始まり、生徒が殺せんせーと親しみを込めた話へ続き、私がブリーフィング担当官に呼び出された話で終わる。

「他のみんなはすでに任務に入っています」

我々は以前からおまえに注目していたが、これまでのおまえはまだ、我々の望むレベルには達していなかった。

「よって、あなたにも暗殺任務を依頼します」

この任務ミッションはきわめて安全で、多くの楽しみがあるでしょう。

「人間には無害で、怪物には効く、ナイフと弾を支給します」

軟質の刃物と、BB弾と遊戯銃。卓上にずらりと装備を並べて、担当官たちは簡潔に講義する。

私は最初に拳銃をとった。まるで手になじまなかったが、この場所からは外側アウトサイドが見えない。

窓は隠されている。

扉も塞がれている。

かくして装備を割り当てられたら、まもなく任務ミッションの場所へ移動する頃合いだ。しかしてブリーフィング担当官たちは黒色に身を包んでいる。

私は拳銃ハンドガンをにぎっている。

奇妙な想像が脳裏をよぎった。

だが装填された弾丸は合成樹脂めいた球形で、私たちには効かなかった。頭の上に輝く星も、もはや数えるまでもない。